たま〜に映画 音楽情報
2023.6.9
「ある男」

昨年の日本アカデミー賞の主要部門を独占した作品。
亡くなった夫の身元調査という不思議な依頼をされた人権弁護士。不慮の事故で亡くなった夫の姓名は全くの嘘で、実は別人だった。
弁護士はその「ある男」の正体を追いかけながら、様々な人物に出会い、真実へと近づいて行き、その男の気持ちが分かるにつれ、いつしか自分と重なっていく。
普通に生きている人たちの、無意識な差別と偏見がすごい。でも現実に近いのかもしれない。生まれてきた環境で、その後の人生のある程度は決まってしまっているのだ。すべての人がその事を自覚しないと、息苦しい社会は変わらない。
生まれてくる家や親は自分では選べない。自分の背負ってしまった運命は振り払えない。だとしたら、「ある男」はこれから増えそうな気がする。本人たちが納得の上なら。
ミステリーのオブラートに包まれてはいるが、様々な社会のテーマを内包している。エンターテイメント性がありながら、骨太の作品だと思う。
「悲しいというより.......」「寂しいね」という義父を亡くした息子の言葉に救われる。
なりすました後の「ある男」の人生は幸福だったのだ。