作られ方のうつくしいもの


2018.5.16
係わる全ての人が喜ぶ織物を、より独創的に ~前田源商店~

皆さんご存知ですか?世界で最も農薬が使われている作物は綿花栽培であり、その農薬によって大地は汚れ、そこで働く人々の健康を損ねているという事を。綿は今や最もポピュラーな洋服の素材。私たちにとっても他人事ではありませんね。
また、漂白や染色を始めとするたくさんの化学処理による廃水は、途上国の川や湖、海の水質汚染源となってきました。
そうした問題に早くから取り組み、化学肥料、農薬に頼らない有機栽培、オーガニックコットンを生産してきた機屋が㈱前田源商店さんです。

前田源商店は、大正10年富士吉田の地で絹の傘生地からスタートし、時代とともに様々な生地を織ってきました。昭和40年くらいに、現在の社長である前田市郎さんのお父さんの代より短繊維を織らざるを得なくなり、DCブランド全盛期には、様々なファッションブランドの生地を生産し最新の流行を追いかけていたそうです。
そうした中、アメリカから情報が入ってきたばかりのオーガニックコットンと出会い、一般の方が使っても気持ちがよく、アトピーアレルギーや化学物質過敏症の方でも安心して身に付けられる素材として、オーガニックコットン100%の生地の開発を続けていく事になります。

しかし、シルクの産地でオーガニックコットンへ転換する事は大変なご苦労があったと思われます。当初は高いと言われ販売にも苦労されたとの事。オーガニックコットンを名乗るニセモノとの区別も難しい。そうした苦労から、「日本オーガニックコットン流通機構」というNPO法人の設立、運営にも携わり、厳しい認定基準を作り、本当のオーガニックコットンを証明するルール「NOC認定」を確立されました。

オーガニックコットンは、一般の綿畑で使われている化学肥料や殺虫剤、除草剤などの農薬を一切使いません。糸の産地は主にインド、ペルー、タンザニアですが、綿花畑で働く人たちは素足で農作業をし、歌いながら綿花を摘んでいるそうです。仕上げ工程でも、天然石鹸や酵素などを使って化学薬剤の汚染を最小限にしています。
また、綿の産地の多くは経済貧困地域にあり、オーガニックコットンに転換する事によるフェアトレードで多くの貧困に苦しむ人々を支援しています。

綿のイメージって白ですよね。でも実は原種は茶色だったのです。しかし、染色するには薄い色の方が良い為、白く品種改良され茶綿は消えてゆきました。しかし、オーガニックコットンの需要から、染色せずに色柄を楽しむという環境保護の価値観により復活したそうです。茶綿には紫外線を防ぐ力があり、天然のUVケア素材として今は色々な製品にも使われています。

これがオーガニックコットン?
前田源商店では今までのオーガニックコットンのイメージを覆すような独創的な柄や色の生地も開発されています。環境や身体に良いだけでなく、生地としても、より素晴らしい提案が出来るのも、伝統の技術がある機屋の強みかもしれません。

前田源商店では、普通の日でも連絡さえ入れておけば生地を50cmから販売して下さるそうです。全国から直接購入しにくる人が大勢いらっしゃるとの事。
また富士吉田で毎月第3土曜日に開催されるイベント「オープンファクトリー」(様々な機屋さんが一般客を迎えてくれる)でも直接お買い求めできます。
今週末の5/19(土)開催です。
様々なオーガニックコットンがありますので、是非ご覧下さい。

式会社 前田源商店
〒403-0004
山梨県富士吉田市下吉田2-25-24
TEL 0555-23-2231

2018.5.14
甲斐絹の産地で始まったリネンの革命 ~TENJIN factory~

2000年代後半からのリネンブームを牽引してきたと言っても過言ではない、リネンの服飾ブランド「R&D.M.Co-」。2004年にしむら祐次さん、とくさんご夫婦が富士吉田で設立してから地元を中心に活動されていて、Cafeなども営業されながら産地からの発信に重点を置かれています。そのブランドを支えているのが、しむらとくさんのお兄さんである小林新司さんのリネンの織物工場であるTENJIN factoryです。

富士吉田は甲斐絹(かいき)で有名な古くからのネクタイの産地です。一時は大変な隆盛を極めた産地でしたが、時代の流れとともにネクタイの需要も減少し機屋の数、生産規模など年々縮小してきました。小林さんのTENJINも、問屋から注文を受けた分だけ生産し卸すという下請け的な経営から、自ら企画した生地や製品化したネクタイを、自ら営業して販売していくリスクを取る経営に切り替えていきます。

そんな中、妹のとくさんがヨーロッパの蚤の市で買ったアンティークリネンとの出会いから、リネンの生地生産の試行錯誤が始まります。最初は織る機械が無かったので知り合いに織ってもらっていたとの事。そんな所からのスタートだったのですね。少しずつ評判が広がる中、2000年からキッチンアイテム中心のリネンブランド「ALDIN(アルディン)」がスタートします。

驚くべきは、それまで使っていたネクタイ生地生産の織機から、リネンの生産のために全ての織機を低速のシャトル機に買い換えてしまったとの事。そうですよね、何で甲斐絹の産地で小林さんの所だけリネン?て思っていましたから。織機は手放す人から安く買え、職人さんは扱いには慣れていて、近くに全国にネットワークのある糸の商社があった、とはいえ相当なリスク覚悟の再出発だったと思います。実際、ネクタイ地などの長繊維の糸から短繊維のリネンの糸の切り替えは相当難しく、大変苦労されたとの事。
そうしたものづくりの苦労からか、小林さんはリネンのクオリティーとともに販路にもこだわり、自分たちで販売先も開拓してこられたそうです。始まりは家業を継いだとはいえ、起業と呼べるくらいのインパクトだったのではないかと思います。

小林さんの影響もあり富士吉田では若い後継者たちが次々チャレンジを始めています。小林さんも、良い織物は海外へも展開を広げていきたいという意欲から、NYなどの展示会にも積極的に出展されています。今後はリネンを中心に、天然繊維である綿やウールにも広げていきたいと話す小林さん。

現在TENJINでは、キッチン周りなどの雑貨の製品販売を中心に展開されていて生地の販売は行っていませんが、富士吉田・富士山駅近くのハタオリマチ案内所で毎月第3土曜日に開催されるイベント「KIJIYA」では、TENJINの生地が購入出来ます。
また、様々な機屋さんが一般客を迎えてくれる「オープンファクトリー」というイベントも同時開催されていますので、「ALDIN」の製品も購入出来ます。
貴重な機会ですので、是非遊びにいらして下さい。

5/19(土) 10:00-17:00
KIJIYA/ ハタオリマチ案内所
山梨県富士吉田市上吉田2-5-1
TEL 0555-22-2164

TENJIN factory
〒403-0004
山梨県富士吉田市下吉田7-29-2
TEL 0555-22-1860

2018.5.8
流しの洋裁人は、未来へ流す ~原田陽子~

衝撃的な人に会いました。”流しの洋裁人”を名乗る原田陽子さん、その人です。全国各地のイベントに呼ばれれば、職業用ミシンとロックミシン2台を持ち、裁縫道具を担ぎ、知人友人を頼って滞在しながら、お客さんの前で洋服を仕立て上げるという活動をされています。
まるで昔見た行商人か、修行僧のような出で立ち。一体何が彼女をここまで突き動かしているのか。興味がわきお話を伺ってきました。

服は人が作っている。働くことで喜びを感じたい。服を作る過程を見てもらいながら、目の前の1人の人の為に服を作る人になりたい。

彼女が”流し”を始めるきっかけとなった、いくつかの出来事があります。
22歳から4年間勤めた岐阜のアパレルメーカーの仕事で、大量生産大量消費のアパレルのサイクルで感じたたくさんの違和感。何の為、誰の為に服を作っているのか分からなくなって仕事の喜びを失ったそうです。
また、友人の誘いで訪れたガーナでの仕立て体験。目の前でおばちゃんがおしゃべりしながら楽しそうに自分の為に服を作ってくれた風景は、とても楽しそうで自由で、働くことの原風景に感じたとの事。
そしてその後、助手を務めた大学の服を作る実習では、「服は機械で自動生産されていると思っていた」という学生の言葉に大変な衝撃を受けます。どうやって作られているかさえ知らない人がいる。毎日着ている身近なものなのに。

彼女が縫っている所には自然と人が集まります。じっと見入る人。話しかける人。元気をもらったと話す人。服を仕立てた人からは、その服を着る度にあなたの事を思い出す、と言われるそうです。何より、作り手、買い手の顔が見え、楽しそうです。どこか、私たちの活動とも共通点がある気がします。

彼女の挑戦”流し”は、実に古くさいように見えながら、会社という組織に属さず(ネット情報や最新テクノロジーは駆使しての)自由な個人が営む小商いであり、これからの未来社会の切り口にも見えます。今の社会環境に抗う、とても新しい経済活動に思えます。
服を仕立てる現場を見せる事で、作り手への思いを馳せる。服は毎日着る身近なものだから、人任せにせず、服を通して今の社会が抱える問題点を考えるきっかけになれば良い。
彼女の挑戦は、巨大なマスプロダクトに抗い大海に漕ぎ出す一隻の小船のようですが、乗っている本人は気負いも無く至って楽観的。
流しの洋裁人は、やわらかい人でした。

画像左一番上は、ヨシダキミコ氏撮影。

流しの洋裁人 原田陽子
5/19、20 東京・南池袋公園 池袋living loop
5/26,27 山梨・河口湖 ハナテラスマーケット
5/30-6/4 愛知・名古屋高島屋 NUNOフェスティバル

ツイッター 流しの洋裁人@ohariko traveler
インスタグラム oharikotraveler_yokoharada
フェイスブック 流しの洋裁人OharikoTraveller

2018.2.23
職人の意志を今の時代に引き継ぐテキスタイルクリエーター ~musuburi~

アーツ&サイエンス、GASA、Afaなどのハイファッションブランドにオリジナルの生地を提供しながら、年に数回の展示会にて一般の方にも生地を販売されている一人生地屋「musuburi」の長谷真由美(ながたにまゆみ)さん。アパレルへ卸す生地も、企画の提案を受けるのではなく全て長谷さんが企画したオリジナルの生地のみ。とてもリスクのある挑戦であると同時に、ブランドのクリエーションを支えるイノベーターとも言えます。

長谷さんのやり方は、ご自宅のアトリエにある北欧の足踏みの手織り機で、試作であるサンプル生地を織る事から始まります。織りを繰り返しながら、たて糸の通し方、よこ糸の組み方の組織図を考えます。サンプルの糸から本製品の糸の手配、撚糸依頼、染色指示、サンプル反進行、製織、整理加工指示、検反など全て一人で確認しているとの事。簡単な事ではありません。様々なトラブルがあるのだと思います。尾州で希望した糸がなくなって、急遽アイルランドで紡績している会社から輸入したなんて事も。

長谷さんのテキスタイルにはまた、染めにもこだわりが。奄美の藍泥染めや福木染め、竹炭染め、日本画に使うような貝の顔料染め、京都の山の赤土染め、鉱物の弁柄の顔料染めなど、様々な天然染色を取り入れています。アーツ&サイエンスからは製品染めの依頼もあるそうです。

全ての作業を一人でやってしまう、長谷さんとは一体どんな経歴の方なのかとお伺いして納得しました。長谷さんは、日本を代表する織元でありながら惜しまれつつ廃業した伝説の機屋「みやしん」で企画を担当されていた方でした。「みやしん」のテキスタイルは、パリコレクションに参加する世界的なデザイナーをも魅了し、ニューヨーク近代美術館など多くの美術館にもコレクションとして収蔵されています。
長谷さんは、テキスタイルの勉強をした後の就職先探しの時、当時求人がなかった「みやしん」の社長に「給料は要りませんから仕事をさせて下さい」と直訴して何度も断られた末入社されたそうです。
残念ながら「みやしん」は廃業してしまいましたが、長谷さんはその意志を今の時代に引き継ごうとしているように思います。伝統や技術を残そうとする事はうつくしい事ですが、それを必要とするかを決めるのは今の時代の普通の人々です。そのままでは残らないのであれば、求められるかたちにうつくしく変換しなければなりません。長谷さんの挑戦は続きます。

そして、鎌倉にて「musuburi」の展示会があります。生地は1mからのカット販売が可能です。今回の展示会は西荻のアパレルportoponponeさんとのコラボレーションで、musuburiの生地で洋服の注文も出来ます。左のワンピースはmusuburiの生地、portoponponeのデザイン。
この機会に是非素晴らしい生地をご覧下さい。

3/3~3/9 11:00-17:00
鎌倉/YAMA Gallery 招山
248-0031 鎌倉市鎌倉山2-22-33 TEL0467-32-1712

musuburi
https://www.instagram.com/musuburi/

2018.1.29
1時間に1mだけという驚異 ~和田メリヤス~

ここ数年、かなり目にするようになったカットソーの「吊り編み」製品。しかし現在、その編み立てを主としているのは和歌山にある2つの会社だけだそうです。
理由は1時間で1mという考えられない生産効率ゆえ。カットソーは高効率のシンカーという大型の編み機が出現してから大量生産が可能になりました。同時にライフスタイルも変わり、Tシャツやパーカーというカジュアルは飛躍的に広がりました。生産効率は30倍ほど。
それはそれでとてもありがたいことです。でも、吊り編みの生地は風合いがありながら伸縮性に富み、洗濯し続けても変わらない耐久性があります。

シンカーの針は可動式で糸を引っ張りながら生地を編むのに対して、吊り編みのヒゲ針は台座に固定されたままなので、空気を含みながら柔らかくゆっくりと生地を編み上げていきます。
編み上がりも、シンカーは引っ張られて丸められてゆきますが、吊り編み機は余分なテンションが掛からず自重で平らに溜まっていく自然さ。まあ機械がやっている事なのですが、まるで手編みのセーターならぬ手編みのカットソーというようなやさしさ感があります。

「吊り編み」専業の1社が和田メリヤスさん。新素材の開発にも力を注ぎ、両面パイル・裏毛両面パイルという生地で特許も取得されました。南極越冬隊の下着にも採用されたそうです。現在、国内外のたくさんの有名ブランドに使われているとの事。
和田メリヤスさんでは新しい試みとして自社ファクトリーブランドとして「Switzul(スイッツル)」を展開し、東京・世田谷にショールームを構えています。ここでは製品とともに吊り編み生地の少量販売もしています。生地は裏毛のグレー以外は、下晒していないソーピング処理(生機の表面の付着物を取り除いた状態)のものですが、とても貴重な吊り編みの生地を機屋さんから直接購入出来る場所はほとんど無いのではと思います。貴重な吊り編み機の展示もあります。是非一度ご覧下さい。

購入出来るのは3種類。
1.30/30/30吊裏毛 色:グレー、生成り(ソーピング処理のみ)\2,300/m(税抜)
表糸に30単糸、中糸に30右撚単糸、裏糸に30単糸を使用した吊り裏毛。中糸に表糸とあえて逆撚りの糸を使用する事で洗濯による”斜行(生地が一方向にねじれる事)”が起きにくい。裏毛としては薄手なのでパーカーよりもスエットがお薦め。左の画像はグレー。
2.30/30吊天竺リバーシブル 色:生成り(ソーピング処理のみ)\1,900/m(税抜)
表糸に30単糸、中糸に30右撚単糸を使用した天竺。こちらも表糸/中糸と逆撚りの糸を使用している為、単糸の風合いながら斜行が起きにくい。表糸/中糸ともにコーマ糸を使用している為の滑らかさと、吊り編みの柔らかさ、気持ち良さがある。Tシャツがお薦め。
3.40/2吊天竺 色:生成り(ソーピング処理のみ)\1,700/m(税抜)
40双糸 40番手(数字が大きくなると細くなる)のコーマ糸を2本撚り合わせた吊り天竺。工場でも最も定番の生地として生産されている。目面がきれいで柔らかく伸縮性がありしなやか。Tシャツがお薦め。左の画像はこの生地で作られたTシャツ。

和田メリヤス株式会社
和歌山showroom & factory 
〒640-0353 和歌山市馬場165-1
東京showroom 
〒154-0001 東京都世田谷区池尻2-4-5 IID世田谷ものづくり学校内111
TEL:03-5787-6405 / FAX:03-6369-3465
https://switzul.com